書籍「食品の裏側―みんな大好きな食品添加物」概要
今だから読みたい「食の安全」のバイブル――。廃棄寸前のクズ肉も30種類の添加物でミートボールに甦る。コーヒーフレッシュは水と油と添加物。元添加物トップセールスマンが明かす加工現場の舞台裏。知れば怖くて食べられない。
「食品の裏側―みんな大好きな食品添加物」内容紹介
- 書名:食品の裏側―みんな大好きな食品添加物
- 著者:安部司
- 出版社:東洋経済
- 発売年:2005年
- 価格:1540円(税込)
著者紹介
安部 司(あべ・つかさ)
1951年福岡県生まれ。山口大学文理学部化学科卒。総合商社食品課勤務後、無添加食品の開発・推進、伝統食品や有機農産物の販売促進などに携わり、現在に至る。
熊本県有機農業研究会JAS判定員。経済産業省水質第1種公害防止管理者。
工業所有権 食品製造特許4件取得。
「食品の裏側―みんな大好きな食品添加物」より
加工食品の原材料名を確認したくなる一冊
食品添加物には「安さ」「手軽さ」「便利さ」などのメリットがありますが、当然デメリットもあります。それは「自分の作っている食品は食べない」という製造者の声にとてもよく現れています。
しかしこの書籍で描かれているのは「食品添加物の危険性」ではありません。毒性や化学記号の難しい話は出てきません。著者の目的は食品製造の舞台裏の情報公開、すなわち「食品の裏側」を披露した上で、消費者の行動を変えること。
「大企業の商品だからと安易に信用してはいけない」
手にした加工食品の原材料名を確認したくなる。「食品の裏側―みんな大好きな食品添加物」はそんな一冊です。
著者が退職を決意したクズ肉ミートボール
発端はそのメーカーが、「端肉」を安く大量に仕入れてきたことでした。
「食品の裏側―みんな大好きな食品添加物」P37
著者の人生が一変したクズ肉ミートボールの描写ですが、まるで主人公たちが悪事を働くクライムサスペンス映画のような出だし。
このままではミンチにもならないし、味もない。しかしとにかく「牛肉」であることには間違いない。しかも安い。
この「端肉」で何か作れないか、と私に相談がきたのです。
元の状態では形はドロドロ。水っぽいし、味もなく、とても食べられるシロモノではありません。
「食品の裏側―みんな大好きな食品添加物」P37
「こんな端肉がどうにかなっちゃうの?」と想像が膨らみます。そして恐ろしいのはこれを本当にどうにかしちゃうところ。オーシャンズシリーズのようなプロの仕事が入ります。
まず、安い廃鶏のミンチ肉を加え、さらに増量し、ソフト感を出すために「組織状大豆たんぱく」というものを加えます。これは「人造肉」とも言って、いまでも安いハンバーグなどには必ず使われています。
「食品の裏側―みんな大好きな食品添加物」P38
これだけでも「うへえ」となりますが本番はここからでした。
これでなんとかベースはできました。しかしこのままでは味がありませんから、「ビーフエキス」「化学調味料」などを大量に使用して味をつけます。歯ざわりを滑らかにするために、「ラード」や「加工でんぷん」も投入。
さらに「結着剤」「乳化剤」も入れます。機械で大量生産しますから、作業性をよくするためです。
これに色をよくするために「着色料」、保存性を上げるために「保存料」「pH調整剤」、色あせを防ぐために「酸化防止剤」も使用。
これでミートボール本体ができました。
「食品の裏側―みんな大好きな食品添加物」P38
すごい数の添加物を経てやっとこさミートボールが完成。さらにここからソースの製法になります。ここでは割愛しますがこれまたすごいんです。
淡々と抑制の利かせながら恐怖を煽る語り口は名文ですが、何より恐ろしいのはこのミートボールが飛ぶように売れたとのこと。産業廃棄物寸前の端肉が添加物の力をえて多くの人の胃袋に収まったと言う驚愕の事実が添加物の「闇」を現しています。
著者はこのミートボールが食卓に並んだとき、慌てて家族が食べるのを阻止しました。そして「自分や家族が食べられない食品を作っていていいのだろうか」と覚醒し、添加物トップセールスマンの座を捨てて退職。無添加の明太子を作ろうと決意したのです。
端肉ミートボールも強烈ですが水や大豆、卵白のつなぎを注射して増量するプリンハムも衝撃。ぜひ本を手に取って読んでみてください。
原材料名の裏側で行われてる情報操作
知らない人は知らないながら業界常識なのですが、原材料名で表示されている添加物は用途が同じならまとめることができます。ここのところも上手に説明してくれています。
たとえば食品の変質・変色を防ぐ「pH調整剤」。
これは、ひとつの物質名ではありません。「クエン酸ナトリウム」「酢酸ナトリウム」「フマル酸ナトリウム」「ポリリン酸ナトリウム」といった添加物の「集合体」なのです。4~5種類は使われているのが普通です。それぐらい入れないと、pHの調整効果が出ないのです。
化学記号のカタカナが4~5種類もずらずら並んでいたのでは「添加物を大量に使っている」との悪印象を持たれてしまいますが、一括表示なら「pH調整剤」とだけ書けばいい。少なく見せかけられます。
「食品の裏側―みんな大好きな食品添加物」P112
原材料名を見たときに「添加物がこれくらいならいいか」と思っても、一括表示を隠れ蓑に実際はもっと大量の添加物を使っているというのです。「あまりに多いと記載が長くなる」という反論があるかもしれませんが、これは情報操作以外のなにものでもありません。
「これは乳化剤でまとめられる。その方が見た目が良い」「あと2種類追加すれば酸味料として記載できる。その方が見た目がよい」などなど、いかに原材料名表示における添加物の痕跡を消すか。そこに企業努力が注がれていると著者は指摘します。
まるでミステリー小説のアリバイ作りのような添加物隠しが行われているという衝撃。さらにこれだけではありません。なかには何と原材料名表示が免除されるものも。
これはキャリーオーバーと言って、たとえば「しょうゆ」と記載があっても、そのしょうゆがどのような原材料でできているのかまで記載する必要がないのです。たとえば一切添加物の記載がない商品があったと仮定しても、そこに「添加物を使ったしょうゆ」が使われていたら……。
食品添加物の危険性は本書のテーマではないので触れていませんが、なんとも恐ろしい時代になってきたのだなと実感できます。
まとめ
いろいろな実例をあげつつも、添加物のメリットにも光をあてるバランスの取れた名本です。食品添加物ではありませんが、ほとんど必ずと言っていいほど原材料に使われている「たんぱく加水分解物」「ブドウ糖果糖液糖」に対してとくに味覚面で警鐘を鳴らしているのは胸に刻みたいところ。
加工食品を食べない人は現代日本にほとんど存在しません。とくにダイエット食品には添加物が使われるケースが多く、添加物の知識をもってることがベター。ダイエッターこそ目を通すべき必読本です。