書籍「無添加はかえって危ない」概要
「食品添加物を食べるとがんになる」
「最近の遺体が長持ちするのは、生前人工保存料をたくさん摂ったため」
といった食品添加物についてのトンデモ情報がはびこっている昨今、
消費者はそのまま信じ、さらに不安を高めています。
その不安につけこんで、一部の流通事業者は、
食品添加物を使っていない「無添加」を売りモノにする一方、
科学者は黙ったまま。
そうした食品添加物にまつわる風評と誤解を正し、
消費者に安心してもらえるよう、安全な食品添加物の姿を、
科学的に、かつ分かりやすく伝える1冊です。
特に、「無添加は経済的にも損をする」という、
経済学者である筆者の主張は、不況に苦しむ消費者に、
消費生活の賢い送り方を伝授します。「無添加はかえって危ない」内容紹介
- 書名:無添加は返って危ない
- 著者:有路昌彦
- 出版社:日経BPコンサルティング
- 発売年:2011年
- 価格:1760円(税込)
著者紹介
有路昌彦 ありじ まさひこ
近畿大学農学部准教授
(株)自然産業研究所取締役を兼務
京都大学農学部卒業、同大学院修了(農学博士)。大手銀行系シンクタンク研究員を経た後、民間研究所役員を経て現職。専門は、食料経済学、食品リスクの経済分析、水産経済学、計量経済学、経営学。食品安全委員会各種事業、農林水産省の高度化研究事業(BSEに係るリスク管理の経済評価と最適化に関する研究)などの研究を手がけ、リスクコミュニケーターとしての活動の傍ら、地域再生や経営再建などのコンサルティングも手掛ける。政府関係、学会関係の各種委員を兼務。主要な著書に、「水産経済の定量分析」(成山堂出版)、「日本漁業の持続性に関する経済分析」(多賀出版)、「思いやりはおかけに換算できる!?」(講談社+α新書)など。論文、連載な等多数。
「無添加はかえって危ない」より
無添加食品は本当に無添加なのか?
食品添加物の危険性が騒がれはじめ、多くの企業が「無添加」や「保存料不使用」と謳った商品を出しています。自分も「無添加の寿司って体に良さそう」「成保存料不使用ならきっと体にいいに違いない」と消費選択したことがあります。
しかし、多くの無添加商品は消費者にとってイメージだけであると著者は主張します。
一部のメーカーさんの冷凍食品には「保存料無添加」と強調してあるのを見たことがあります。冷凍食品はマイナス18℃以下で保存することで、流通補完の際に腐敗・変敗しないように菌の増殖を抑えているものです。
ですから、わざわざ保存料を使う必要がありませんので、冷凍食品に保存料は普通使いません。それなのに「無添加」とうたった冷凍食品があれば、何もうたっていない冷凍食品に比べて、よく見えてしまいます。
「無添加はかえって危ない」P29-30
これならまだ「うまくアピールしてるから賢い」と思えますが、下記はどうでしょうか。
私の知り合いの食品添加物メーカーは、「お客さん(食品メーカー)から、消費者の片が嫌うので『保存料』と書かずに済む『保存料』はありませんかと言われて困っています」と苦笑をしていました。
「無添加はかえって危ない」P35-36
じっさいに保存料と同じ働きをする日持ち向上剤を使ったりするそうで、名前の違う似た働きをする食品添加物を使っているのです。こうなるとアピールが上手を通り越して「悪巧みのレベル」です。
他にも「無添加豆腐とあるけれど本来、豆腐はにがり(塩化マグネシウム)を添加しているので無添加はありえない」「無添加がよいとアピールして自社商品に誘導する」など、無添加という言葉を使いたいがための微妙な商法がまかり通っていると著者は主張します。
商品に記載されている「無添加」「合成着色料不使用」などは本当に意味のある無添加なのか。自分が選んでいる「無添加」の商品、本当の意味で無添加かチェックしたくなりますね。
食品添加物が嫌われる理由
「無添加はかえって危険である」では食品添加物が起こしてきた問題をあげています。
1955年のヒ素ミルク事件は130人もが死亡した大事件。。
昭和40年代に9年ほど使われていたものの発がん性があるとして使用禁止になったAF-2。一家六人の中毒を引き起こし毒性が高いと判断され使用禁止になった甘味料ズルチン。昭和40年代はすでに許可されていた食品添加物の安全性の見直しが行われていた時期でもありましたが、その危険性の証明は雑なものもありました。
象徴的だったのは民法のテレビ番組「アフタヌーンショー」が、AF-2の左様で金魚が死んだかのような実験映像を放映したことです。この放映は裁判にまで発展して大変注目されました。結局、金魚に影響したのはAF-2を溶かすために使ったアルコールだったことが裁判所によって認定されたのですが、このことはあまり知られていません。
「無添加はかえって危ない」P51
その他にも国内で発がん性ありとして禁止になったものの発がん性はないと後に判断され、現在は他国で利用されているチクロなどを引用し、必ずしも危険だから禁止された添加物ばかりではないと著者は教えてくれます。
デラニー条項とは、1958年に米国において成立した「人または動物にがんをつくることが分かった食品添加物は安全とみなしてはならず、使用を禁止する」という条項のことです。デラニーさんという議員が提案したのでデラニー条項と呼ばれています。この条項によって当時は、多くの食品添加物が使用禁止となりました。でも、現在では分析技術も進んで、食品に発がん物質が含まれるのは当たり前だということが分かってきたのであまり活用されなくなっています。
「無添加はかえって危ない」P52
野菜にだって発がん物質が含まれているという事実。実際に食品添加物が危険を引き起こしてきたのは事実ですが、過剰に騒がれ過ぎではないかという気がしてきます。
科学の進歩やガイドラインの整備で安全性は高まっているはずなのに、それが消費者に伝わっておらず、過剰に無添加が持て囃されることは問題ではないか。そう著者は疑問を投げかけます。
野菜にだった発がん性物質は含まれる
「野菜は化学物質であり、あらゆる化学物質には毒性がある」と著者は告げます。当然と言えば当然なのですが、野菜に含まれる化学物質にも発がん性物質があると言います。
野菜には、硝酸塩という化学物質がもともと含まれています。その量は野菜の種類によって違いますが、ターツァイ、シュンギク、ホウレンソウ、ハクサイなどに比較的多く含まれている様です。その硝酸塩は、細胞に取りこまれたときに発がん物質に変化すると言われています。
「無添加はかえって危ない」P57
しかし、野菜を摂取することが原因でがんになることがあるかと言えば「たぶんない」と著者はいいます。発がん性物質が含まれるのは事実ではありながら、野菜を食べるということはそれ以上にビタミンやミネラルなどがんを予防する化学物質を摂取することになるからです。
空気を吸えば活性酸素が生まれ、人体を内部から傷つけます。水ですら一度に5リットル摂取すれば水中毒症になると言います。昔の人は自殺をするときにしょうゆを一気飲みしたという情報も(塩分過剰摂取での自殺)。
もちろん空気を吸っても水を飲んでもしょうゆを飲んでも適量であれば問題がないように、食品添加物の摂取量は科学によって基準化されている。それが一日許容量(ADI)。この数字を守っている以上、添加物が原因による問題は「ほとんど起きない」というのが著者の主張となります。
食品添加物のベネフィット
保存料は「品質の保持」「食中毒リスクの低減」という大きな利点があると著者は言います。この点においては反論の余地はないでしょう。
まとめ
本書は無添加=保存料にターゲットを絞っており「甘味料」「着色料」についてはあまり触れられていません。しかし共通して言えることは「保存料使用のリスクは実は低く、不使用のリスクは実は高い」ということ。
人間が生きる上で発がん性物質を摂取せずに生きることはできません。ゼロリスクはないことを消費者が知って行動すればよいと著者は主張しますが、やはり「子どもが好きな飲料のこの着色料には発がん性がある!」と危険をあおられると科学的根拠なんてどうでもよくて「それは危ない!」と反応してしまうもの。
一方で添加物の危険を煽る学者やライターが「講演はこちらまで。1時間20万円。無添加の商品はこちらから買えます」などと宣伝しているのは確かに不気味で詐欺的でもあります。「このやり方は正しい知識をもった賢人がすることであろうか」と思わされてしまいます。こちらも科学的ではありませんが。
食品添加物は是か非か。科学者ではない多くの消費者は独自に考察するしかありませんが、著者の提示するとおり「空気や水も過剰摂取は危険。野菜にも発がん性物質があるのだから、生きることにゼロリスクはない」と心がけ、なるべく感情的にならず考えたいものです。
在庫がない場合、見つからない場合は図書館でぜひお借りください。食品添加物の危険について語る本が多い現在、消費者に冷静な判断を迫るとても貴重な一冊です。